ゼロの執行人 すごいネタバレとへっぽこな解説

名探偵コナン ゼロの執行人 解説


各々の登場人物(警察、検察、弁護士付近)と事件時系列の進行に伴うそれぞれの思惑、法的制度辺りを整理してみました。

嘘でしょ!?ってくらいネタバレしているので、また執行されていない人はゼ〜〜ッタイ見ないでくださいね!!









































まず簡単に事件に関係する登場人物の立場から。

今回は刑事事件を取り扱う警察、検察、弁護士という三者が絡むストーリー仕立てなのでそこらへんの利害関係を整理しておくと分かりやすいです。


❶安室透(=降谷零)(警察)

警察として事件を捜査する立場。

安室さんは一貫して「テロから日本を守る」という目的のもとそのために何が合理的かを考えて動いています。

❷日下部誠(検事)

検事とは、警察が捜査した事件の資料を受け取って、実際の裁判手続きにおいて被疑者の処罰を裁判官に求める立場。

つまり本来警察と検事は事件上被疑者を罰したい立場で"味方"です。

今回、日下部検事はその立場と職務自体を第一には考えていますが、過去の事件から安室さん始め公安警察に私怨を抱いていますから、彼はしばしばダブルスタンダード的な行動を取ります。

❸橘境子(弁護士)

弁護士は、警察検察と対して被告人を弁護する立場。

(一般的に被告人を無罪にする事だけを目的としていると思われがちですが、正確にはそうではなく、被告人に適正な量刑が与えられるよう、被告人に対して法的に専門の手助けをする役割、と言った方が正しいです)

彼女は今回、公安警察に対する私怨のみで行動しています。


この3人の思惑がすれ違ったり水面下でぶつかり合う中でコナンや小五郎が巻き込まれていくわけですね!



それでは次に事件の時系列を追って行きましょう〜




⑴羽場二三一 司法修習所を罷免される


司法修習とは、司法試験に合格した修習生が受ける課程で、これを修了すると各々成績などにより裁判官、検事、弁護士の各種法曹となります。

羽場はここで罷免、つまり強制的に籍を剥奪された事により、裁判官どころか法曹全てへの道を絶たれます。


行きすぎた正義感を露呈させ暴動を起こした羽場に対し、現場に居合わせた❷日下部検事は「自分と同じ志を持つ者」というシンパシーを感じ、羽場を公安検事の協力者とします。


対して❸橘弁護士は羽場の先輩で事務所をすでに持っており、公安警察の協力者だったのでしょう。この時点では羽場に対して特に特別な思いは無かったと思われます。


公安警察は、羽場が公安検事の協力者であることは知らないまま、羽場個人を公安的要注意人物(異常な愛国思想)であると指定します。

そのため、協力者である❸橘弁護士に対して、橘弁護士の個人事務所で羽場を事務員として雇わせる事で、羽場を間接的に監視下に置いたわけです。(羽場自身サイドには特に公安的考えは無く、単純に就職先として受け入れたのかと思われます)

しかしこの個人事務所で、お互いが検事/警察の協力者である事を知らないまま職場恋愛に発展してしまいますが、この事実は恐らく検事/警察共に把握していなかったのでしょう。



⑵NAZU不正アクセス事件


被告人:ゲーム会社社員

担当弁護士:橘境子

担当検事:日下部誠


コナンが劇中で言っていた、「ゲーム会社の社員が遊びでNAZUのサーバーに不正アクセスしてしまった」事件です。


NAZU(NASAをモデルにした会社でしょう)という国政が大きく関わるような団体のサーバーに不正アクセスするとなると、テロリストや反政府組織の犯行とも想定されますから、公安警察により捜査が行われていたはずです。

結果としてはゲーム会社社員の悪ふざけだったわけですが、そこから取り返しのつかない情報漏洩に繋がる可能性もあります。

そういった諸々の事情から、公安警察としてはこの社員をしっかりと有罪にしたいわけです。


そこで公安警察は、本来は被告人を擁護する立場の❸橘弁護士に対して、「被告人を有罪にする」方向に動くよう指示をします。

勿論橘弁護士も指示のもと、その方向で裁判の準備を整えていました。


同時に❷日下部検事は、当然被告人を糾弾する側の立場ですから、被告人の有罪を求めるべく事件の調査を進めて行きます。


つまり本件は裁判で検事と弁護士が争うかと思いきや、どちらも被告人を有罪にする立場から動くわけで、どう転んでも被告人は有罪になるんですよね。

ただし検事/弁護士はお互いの思惑はつゆ知らず、それを知っているのは公安警察だけな訳です。


そんな中、❷日下部検事は事件の重要な証拠(被告人の犯行を立証するために有利になるものでしょうね)がゲーム会社のサーバー内に現存する事を突き止めます。

これがあれば捜査がぐんと進む(無くてもどうせ有罪にはなったのですが…)と考えた日下部検事は、協力者である羽場に「証拠を入手して欲しい」と依頼します。

そのため、羽場は当ゲーム会社に侵入し、この証拠を入手しようとしたのです。



⑶羽場によるゲーム会社侵入及び窃盗事件


被告人:羽場二三一

担当弁護士:??

担当検事:岩井紗世子


公安警察から見たら要注意人物だと睨んでいた羽場が案の定やらかしたな、というところだったのでしょう。

恐らくここで昇進を餌に岩井統括(当時主任)に「羽場を有罪にするよう」指示し、岩井統括もそのように裁判を進めようとしていました。

岩井統括は恐らく公安的思想等はあまり持っておらず、本来は検察が警察を指揮監督するところを公安部門においては逆転している現状も淡々と受け入れている検事です。

そのため、岩井統括は公安警察からの指示通りに羽場を有罪とすることに意義は無いわけです。


しかし、❷日下部検事は自分の協力者が、自分のせいで逮捕されてしまった事に酷く動揺します。

そのため、羽場に「自分の協力者であり、自分の指示で及んだ犯行であることを供述する」ように説得します。

しかし、羽場は日下部検事を庇うために一切の供述をしませんでした。


焦った❷日下部検事はそれならば、と担当検事である岩井統括に「羽場が犯行に及んだのは自分の協力者であり、その指示によるものだからだ」と打ち明け、羽場を起訴しないように直談判します。

岩井統括からすれば誰の指示であろうと羽場が犯行に及んでいるのは事実なので、公安警察の指示通り起訴を強行します。


恐らくここで岩井統括から公安警察に対して、羽場が公安検事の協力者である事が伝えられたのではないでしょうか。

だから「去年まで公安検事に協力者がいるなんて知らなかった」と言う発言になるんですね。



❶安室さんが羽場起訴後、羽場に対してイレギュラーな取調べを行いました。

ここで安室さんは羽場に対して、裁判で有罪になる/日下部検事の協力者である旨を供述する云々ではなく、羽場二三一としての戸籍を捨て、完全に別の人物となる事を提案することで羽場から被告人として拘束される立場からも、日下部検事の協力者として義理立てする立場からも彼を解放しました。

しかしこれは当然表立って行われないため、公安警察の取調べ直後の被告人の自殺として処理されました。


そのため、

❷日下部検事は家族より大切に思っていた羽場を、

❸橘弁護士は恋愛関係にあった羽場を、

公安警察により自殺させられた、と思い込んでしまったわけですね。

だからこの2人はそれぞれ全く違う立場から、同じ理由で公安警察を酷く恨んだのです。



⑷サミット会場爆破事件


被疑者:毛利小五郎(→日下部誠)

担当弁護士:橘境子

担当検事:日下部誠


ここで映画冒頭に戻ります。

東京サミットが行われる、という事で公安部により会場内を事前視察が行われていました。

つまり事件当日、会場内には主に公安警察の警察官ばかりがいたんですね。

高木刑事の「被害が警察官だけだったのは、不幸中の幸いかもしれない」という発言は正に、逆を返せばそこが犯人の動機だったわけです。


この事件については、小五郎逮捕からの流れに法的用語が連発されるので詳しく分解していきますね。


公安警察による事前視察中、爆発が起きる

この時点で❶安室さんは「テロ事件」である可能性には気付いていますが、客観的な状況からガス漏れ事故として処理される可能性が高かったのです。

そのため、一旦無理やりでも事件化して捜査線上に乗せ時間と人員を稼ぐ必要がありました。

そこで、安室さん指示のもと、風見さん始め公安警察は焼きついた指紋やPC内の施設図面などの証拠を捏造して小五郎を被疑者として浮上させました。

これが安室さんが言っていた「自ら行った違法捜査は〜」に当たる部分ですね。


毛利小五郎 逮捕

そんなこんなで小五郎、逮捕されます。

(風見さんが事務所で任意同行を求めていますが小五郎に拒否され、「では今のを公務執行妨害で」と言ったので、一度公務執行妨害罪で現行犯逮捕したのち、爆破について殺人罪傷害致死罪辺りか何かで通常逮捕したのかなあと思いますが、あの描写はちょっと飛躍した刑事ドラマ感出てますね)


ただし、逮捕されてもすぐに裁判にかけられるわけではありません。

まず、刑事事件の被疑者は逮捕の必要性(証拠隠滅や逃亡の恐れ)があれば逮捕されます。

その後警察は48時間以内に事件を検察に送致(こんな事件があったから逮捕したよ〜と書類と証拠を報告すること)します。

これが「小五郎のおっちゃんが送検された」ってやつですね。検事に送るで送検。

送致されると検察から裁判所に勾留請求がされ、裁判所が必要と認めれば勾留といって10日間(必要に応じてプラス10日)、留置施設や拘置所などで拘束されます。


逆に、本当必要がなければ送検も勾留もされないわけです。(まあどちらにせよ検察に報告〔狭義の送検〕まではします)

例えば、芸能人が逮捕されたとニュースになってもすぐに出てくる時ありますよね。

犯罪を犯すとすぐに逮捕されるように思われがちですが、逮捕や勾留というのは身体の自由を大きく侵害するので、憲法上でも捜査の"最終手段"とされているのです。

きちんと取調べを受け、証拠隠滅したり逃亡したりしないと判断出来る被疑者であれば任意事件として、必要な時のみ警察に出向くというのが原則です。その上で、あーダメダメ!こいつ絶対逃げるから!っていう人は一段階一段階令状を出す手続きを踏んで、逮捕して勾留するわけです。


つまり、有名人で元警察官という身元がしっかりしていて、今更証拠隠滅しようがない小五郎が送検され勾留されるということは、テロという大事件の被疑者としてほぼ確定だと判断されているのと同義です。

だから英里さんやコナンが焦っていたんですね。


送検されて、勾留がつくと10日間、必要があればさらに10日間拘束されてその間に取調べを受けます。

取調べの結果(供述調書)や捜査の報告書が検察に送られ、最終的に起訴されるかどうかが決まります。

この書類辺りが「犯罪の手引書みたいですよね〜」とみんなで見ていたやつですね。

起訴されて初めて、被疑者は被告人という立場になり、いよいよ刑事裁判を受ける事になります。


ちなみにこの「起訴」というのは、起訴便宜主義という原則があり、警察の捜査を受け検察が起訴するかどうかを決める権限を持つ、というものです。

公安部門ではそうとは限らない、と橘弁護士が言っていたのはここら辺の話で、本来は検察がその判断をするのに、公安事件については検察が警察の指図を受けるような実態について日下部検事が岩井統括に食いついていたのもここですね。


また、逮捕されてから勾留されるのは警察の留置施設内ですが、送検された後は身柄を刑事訴訟法第80条第1項により拘置所という裁判所の施設に移送出来ます。

これは必ずではなく、拘置所は留置施設に比べて数が少ないので、実際は留置施設にいるまま取調べを受ける事が多々あります。

しかし、重要事件の被疑者であったり、その他様々な事情を鑑みて移送を決定します。

安室さんがポアロからの差し入れを持って行ったら目暮警部が「毛利くんならここにはいないぞ」と言ったのがこの辺の事情です。


③小五郎起訴

結局小五郎が起訴されてしまいます。

起訴されると、勾留期間が更に2ヶ月延長され、その後は裁判の進捗状況に応じて1ヶ月ごと延長されていきます。

逆に言えば、この裁判が終わる(事件完結)までは小五郎が暫定の犯人として警察は捜査を続ける事が出来るわけですね。


ここが❶安室さんの狙いなわけです。

❶安室さんは時間稼ぎをしながら捜査を進め、一方では裁判手続きにおいて小五郎自身が無罪になるように、協力者である❸橘弁護士に小五郎の弁護をさせているんですね。(ナンバーなんちゃら投入って風見さんが言ってたのがこの事です)


しかしここで❸橘弁護士は公安警察に一矢報いてやりたいと思っていますから、公安の思い通りにはさせないぞ、という私怨だけでこの指示を裏切り小五郎を有罪にしようとします。


対して❷日下部検事の思惑も別です。

彼こそが爆破の真犯人ですが、彼の狙いは爆破によってサミットの警備を撹乱し、公安警察の威信失墜です。

ですから、彼は小五郎が無罪である事を当然知っているので、小五郎を有罪にするのは避けたいわけです。

そもそも何故公安警察が彼を捕まえ、更には岩井統括に対して公安警察が小五郎を起訴するよう根回ししてきたかも日下部検事にとっては不可解なわけですね。


そしてコナンは小五郎が起訴された事でいよいよ"ヤバい"と必死になります。

英里と橘弁護士の間の会話でもありましたが、日本の司法では起訴されればほぼ確実に裁判で有罪判決が出るというのが特徴だからです。

欧米では裁判になってから争う余地があるのに対して、日本では起訴前に如何に綿密な捜査を行うかを重要視しているからですね。

どちらも一長一短があるんですが、少なくとも日本では、それだけの証拠を揃えて起訴するので、起訴されれば完全に無罪放免、というのはかなり難しくなってしまいます。


だからコナンはあそこまで血相を変えて小五郎が完全に無罪と言えるまでの証拠を探すんですね。

で、それこそが真の❶安室さんの狙いだったんですよ。ヤバくないですか?


つまり、何とか事件化はしなければならない。

事件化しても真犯人を突き止めなければならない。

そのために警察庁公安部ゼロの降谷零が考え付いたのは、毛利小五郎に被疑者としての白羽の矢を立て、有罪間際まで追い込み、江戸川コナンの本気の探偵力に一か八かの勝負を賭けることだったわけです。


そして安室さんの狙い通り、コナンはIOTテロの可能性に辿り着き、小五郎には不可能だと導き出しました。


ちなみに公判前整理手続というのを裁判官、橘弁護士及び日下部検事の三者でやっていましたね。

本来裁判というのは何回かの日程の中で、事件と関係者、証拠と諸々の事情などをそれぞれの立場から主張し、それを総合的に勘案して裁判官が判決を言い渡すという手続きです。(リーガルハイ辺りがテンポ的には分かりやすいかと思います)

ただし、複雑な事件の場合それを全て裁判の時間内に行っているといくら時間があっても足りないので、公判前整理手続というものを設け、三者の間で予め「こっちはこの辺を有罪の証拠として主張するよ」「じゃあこっちは無罪の証拠としてこっちのカードを出すよ」という手札の見せ合いをしておき効率化を図るのです。

(❷日下部検事はここで出すカードを先走っちゃったんですね〜日下部検事的には小五郎を無罪にしなきゃいけなかったわけですからね)

(そのために日下部検事は焦ってIOTテロを起こすんですね)


そんなこんなで客観的にも小五郎無罪、という事実に行き着けば小五郎を解放しなければなりません。

刑事訴訟法第257条には起訴の取消しが規定されています。

起訴されればほぼ有罪になるとはいえ、決定しているわけではないので、起訴後にやっぱ違うな…と言わざるを得ない場合、検察官は起訴自体を取り消すことが出来ます。

起訴が取り消されれば勿論被告人は釈放になるので小五郎も釈放ですね。

無事安室さんの描いたストーリー通りに計画が進みましたね!良かった!




ここからは推測なんですけど、安室さんの「自ら行った違法捜査には自らカタをつける」という発言の「カタをつける」というのは、小五郎を違法に逮捕した事により引き出したコナンの本気の推理をバックアップするために使える手段は何でも使う、も含めてるのかなと思っています。

それから、スーパーで風見さんに「違法捜査なら公安の得意技なのに〜」みたいなニュアンスの事を言われて「だからこそ合法的な手段を残しておきたい」と言ったのは、小五郎を刑事訴訟の手続きに乗せる事で、逆に刑事訴訟の手続きできちんと小五郎を解放出来ると考えたからだと思うんですね。

安室さんは風見さんに「2291を投入する予定です」って言われてハッとしてる辺りで安室さんは、風見さんが安室さんを指して「あの人は人殺しだ」と言い始めたあたりで風見さんは、公安しか被害の無いテロの犯人が羽場事件の関係者である可能性に行き着いていたのかもしれませんね。

だとすれば、「お得意の違法捜査」で日下部検事を追い詰めることももしかしたら出来たのかもしれないけれど、今回の方法を踏んだのは、そういうことなのかもしれませんね。なんて。


説明が下手でアレなんですけど、総括すると降谷零スーパー有能激ヤバ推せるって話でした。